このサイトでは「実家を貸して家賃収入を得る」までの流れを一通り解説してきました。でも、賃貸経営には必ず「やめるとき」も来ます。自分や家族が住むことになった、高齢になって管理が負担になった、思い切って売却して現金化したい——理由はさまざまです。
「賃貸をやめたい」と思ったとき、入居者がいる状態でどうやって契約を終わらせるのか、退去時の敷金精算や原状回復はどうなるのか、貸したまま売れるのか——意外と情報がまとまっていません。この記事では、賃貸をやめるときの手順を「契約の終わらせ方」「退去と原状回復」「売却」の3つの流れに分けて、大家の目線でわかりやすく整理します。賃貸経営の出口で失敗しないためのポイントを、一次情報へのリンクとあわせて解説します。
賃貸をやめたいときは大きく2パターン|「残す」か「売る」か
ひとくちに「賃貸をやめる」といっても、目的によってやるべきことが変わります。まずは自分がどちらのパターンに近いかを整理しておきましょう。
- 物件は手元に残す(自分・家族が使う/いったん空ける)…入居者に退去してもらい、賃貸契約を終了する。契約形態によって難易度が大きく変わります。
- 物件そのものを手放す(売却する)…入居者がいるまま売る「オーナーチェンジ」か、空室にしてから売るかの二択になります。
どちらの場合も、カギを握るのは「今どんな契約で貸しているか」です。まずはここから確認していきましょう。
賃貸契約の終わらせ方|「普通借家」と「定期借家」で手順が違う
賃貸をやめるときにまず確認すべきなのが契約形態です。賃貸借契約のルールは借地借家法(e-Gov法令検索)で定められており、「普通借家契約」か「定期借家契約」かで、賃貸のやめやすさが大きく変わります。
普通借家契約の場合:大家からの解約には「正当事由」が必要
普通借家契約は、入居者(借主)が手厚く保護されている契約です。契約期間が満了しても、入居者が住み続けたいと言えば基本的に更新され、大家側から「出ていってください」と言うには、法律上「正当事由」が必要になります。しかも、正当事由は簡単には認められません。
実務では、大家の側から退去をお願いする場合、「立退料」を支払って合意のうえで出ていってもらうケースが多いです。金額は物件やケースによって幅がありますが、家賃の数ヶ月〜十数ヶ月分が目安になることもあり、決して小さくありません。「自分がまた住みたいから」という理由だけでは、思うようにいかないのが普通借家の現実です。
そのため普通借家で貸している場合は、入居者から自然に退去の申し出があるタイミングを待つ、あるいは入居者がいるまま「オーナーチェンジ」で売却する、といった選択が現実的になります。
定期借家契約の場合:期間満了で確実に終了できる
一方、定期借家契約なら、契約期間の満了で契約は確実に終了します。更新という概念がないため、「将来また自分で住むかもしれない」という実家オーナーには特に向いています。当サイトでも定期借家をおすすめしているのはこのためです。
ただし注意点があります。定期借家では、期間満了で終了させる場合でも、契約期間が1年以上のときは「期間満了の1年前から6ヶ月前まで」の間に、入居者へ終了の通知をする必要があります。この通知を忘れると、予定どおりに終了できなくなることがあるので、カレンダーに印をつけておくくらいの意識が大切です。逆に、双方が合意すれば再契約もできるので、柔軟に運用できます。
入居者の退去と「原状回復」の考え方|敷金トラブルを防ぐには
契約が終了し、入居者が退去することになったら、次は室内の確認と敷金の精算です。ここで大家と入居者の間でもっともトラブルになりやすいのが「原状回復」の費用負担です。
「原状回復」と聞くと「借りた当時のピカピカの状態に戻してもらうこと」だと思いがちですが、これは大きな誤解です。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、経年変化や通常の使用でできた傷みの修繕費用は、もともと家賃に含まれているものとして、大家(賃貸人)の負担とする考え方が示されています。
ざっくり分けると、負担の考え方はこうなります。
| 費用負担 | 具体例 |
|---|---|
| 大家の負担(通常損耗・経年変化) | 日光による畳や壁紙の色あせ、家具設置によるへこみ、テレビ・冷蔵庫裏の電気ヤケ など |
| 入居者の負担(故意・過失・手入れ不足) | タバコのヤニ汚れ、飲みこぼしのシミ放置によるカビ、掃除を怠った水回りのひどい汚れ、ペットによる傷 など |
さらに、入居者負担になるケースでも、設備や内装には「経過年数」が考慮されます。長く住んだ物件ほど、同じ傷みでも入居者の負担割合は小さくなる、というのがガイドラインの基本的な考え方です。大切なのは、このガイドラインは「入口(入居時)」の対策で決まるという点です。入居時・退去時に室内の状態を写真できちんと記録しておくこと、契約書の原状回復の条件を双方が理解しておくことが、退去時のもめごとを防ぐいちばんの近道です。管理会社に委託していれば、退去立会いや敷金精算はプロが対応してくれるので、この点でも委託のメリットは大きいです。
詳しい区分や事例は、国土交通省が公開している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で確認できます。判断に迷ったら一次情報にあたるのが安心です。
賃貸物件を売却してやめる方法|2つの売り方を比較
「もう物件そのものを手放したい」という場合は売却です。ここで実家を貸している人ならではのポイントが、入居者がいる状態でも売れるということです。売り方には大きく2つの選択肢があります。
① オーナーチェンジ(入居者がいるまま売る)
入居者が住んだまま、賃貸経営ごと新しいオーナーに引き継ぐ売り方です。買主は「家賃収入が入ってくる収益物件」として買うので、投資家や不動産会社が主な買い手になります。入居者に退去してもらう必要がないため、普通借家で貸していて退去交渉が難しいケースでも売却できるのが最大のメリットです。空室にする手間もありません。
一方で、買い手が投資家中心になるぶん、実際に住みたい人(実需)向けに売るより価格が低めになりやすい傾向があります。売却価格は家賃利回りで評価されるためです。
② 空室にしてから売る(実需向け)
入居者の退去後、空室の状態でマイホームを探している人に売る方法です。実際に住みたい人に売れるので、オーナーチェンジより高く売れる可能性があります。ただし、そのためには先に契約を終了させて退去してもらう必要があり、定期借家なら満了を待つ、普通借家なら退去のタイミング次第、という制約がつきます。
| 比較項目 | オーナーチェンジ | 空室にして売る |
|---|---|---|
| 売却価格 | 低めになりやすい | 高くなりやすい |
| 入居者の退去 | 不要 | 必要 |
| すぐ売れるか | 比較的早い | 退去を待つ必要あり |
| 普通借家との相性 | ◎ | △(退去交渉が壁に) |
売却の第一歩は「複数社への一括査定」から
オーナーチェンジでも空室売却でも、最初にやるべきなのは複数の不動産会社に査定を依頼して価格を比較することです。1社だけの査定では、その価格が高いのか安いのか判断できません。無料の一括査定サービスを使えば、一度の入力で複数社にまとめて査定を依頼でき、相場観をつかんだうえで信頼できる会社を選べます。代表的なサービスは次のとおりです。
- HOME4U(NTTデータ グループ運営)…国内で運営歴の長い不動産一括査定サイト。運営会社の信頼性を重視する方に。
- SUUMO売却査定(リクルート運営)…知名度の高いSUUMOが運営。地域の中小業者にも幅広く依頼できます。
- すまいValue(大手6社直営)…三井のリハウス・住友不動産販売など大手6社に直接査定を依頼できるサイト。
- イエウール…提携社数が多く、地方物件でも査定先が見つかりやすいのが特徴。
査定を依頼するときは、他社への紹介を制限する「囲い込み」をしない会社を選ぶこと、そしてオーナーチェンジ物件の場合は収益物件の売買実績がある会社を選ぶことがポイントです。
賃貸をやめて売るときの税金に注意|譲渡所得と特例
賃貸中の物件を売るときの税金は、「これから貸すか売るか」を入口で選ぶときとは前提が変わるので注意が必要です。特に次の2点に気をつけましょう。
- 減価償却で「取得費」が目減りしている…賃貸中に建物を減価償却してきたぶん、税金計算上の取得費が下がっています。その結果、売却益が大きく計算され、思ったより税金が増えることがあります。
- マイホームの3,000万円特別控除が使えないことが多い…自宅を売るときの強力な特例ですが、賃貸に出している間は「居住用」ではなくなるため、原則として使えません(住まなくなってから3年以内など条件を満たす場合を除く)。
譲渡所得の計算方法や特例の適用条件は、国税庁「譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」で確認できます。賃貸期間が長い物件ほど、税額の差は大きくなります。売却を考え始めたら、早めに税理士や不動産会社に相談して、手残りがどれくらいになるかシミュレーションしておくと安心です。当サイトの税金・節税の記事もあわせて参考にしてください。
賃貸をやめるときの全体の流れ(手順まとめ)
最後に、賃貸をやめるときの流れを手順として整理しておきます。
- 今の契約形態を確認する…普通借家か定期借家かで、やめやすさが大きく変わります。
- やめ方を決める…物件を残す(退去してもらう)のか、売却するのか。売却ならオーナーチェンジか空室売却か。
- 契約終了・退去の手続き…定期借家は満了通知、普通借家は退去交渉や立退料。退去時は原状回復と敷金精算を丁寧に。
- 売却する場合は査定・媒介契約・引き渡し…複数社に一括査定を依頼し、囲い込みをしない会社を選ぶのがコツ。
- 税金を確認する…減価償却後の取得費、譲渡所得税、特例の使えなさに注意。早めに専門家へ相談。
賃貸経営は「始めるとき」ばかりが注目されがちですが、実は「やめるとき」こそ契約形態や税金の知識が効いてきます。特に、将来やめる可能性が少しでもあるなら、貸し始める段階で定期借家を選んでおくと、出口がぐっと楽になります。これから貸す方は、契約形態の選び方から見直しておくのがおすすめです。
賃貸をやめたいときのよくある質問(FAQ)
Q. 入居者がいても賃貸物件を売却できますか?
A. できます。入居者が住んだまま賃貸経営ごと引き継ぐ「オーナーチェンジ」という売り方があり、退去交渉が不要なため普通借家でもスムーズに売却しやすいのが特徴です。ただし収益物件として評価されるため、空室にして売るより価格は低めになりやすい傾向があります。
Q. 普通借家契約で貸していますが、自分が住みたいので退去してもらえますか?
A. すぐには難しいのが実情です。大家側からの解約には借地借家法上の「正当事由」が必要で、簡単には認められません。実務では立退料を支払って合意退去してもらうか、入居者からの退去申し出を待つ、オーナーチェンジで売却する、といった選択が現実的です。
Q. 退去時の原状回復費用は、どこまで入居者に請求できますか?
A. 経年変化や通常の使用による傷み(クロスの色あせ、家具のへこみなど)は大家の負担です。入居者に請求できるのは、故意・過失や手入れ不足による汚損(タバコのヤニ、放置したカビ、ペットの傷など)が中心で、その場合も設備の経過年数が考慮されます。詳しくは国土交通省のガイドラインを確認しましょう。
💡 そもそも「貸すか売るか」で迷っている方は、こちらもどうぞ👉実家を賃貸に出せない・出したくない場合はどうする?売却を検討すべきケースと注意点まとめ

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